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April 29,2002 mon.

春と夏との間、朝の空気がちょっと冷たい季節、ふと思い出すこと。

ロンドンの街中、黄昏時、彼は彼女を待っていた。
少し待ち合わせ時間に遅れているだけなのに
迷子になった子供が、母親を待ちわびるような小さな背中、
非常に繊細な作品を作る彼。

グレーの空を見上げながら、湿った芝生に目を落しながら、
言葉を選びながら静かに話す彼。
彼は、日本を離れ、ロンドンに居場所を求め、
でもやっぱり日本から逃れることなどできない様子だった。
長旅の末、日本食に餓えていた私達に「イタリア米は、旨いんだよ」と
わざわざフラットに届けてくれた彼のおにぎり、
こんなに人を思いやる気持ちに溢れた人に会ったことがあるだろうか?
あの時の海苔の香り、甘いお米の味、忘れられない。
ドクターである彼女の帰りを待つ彼、
その人なしでは、捨て去られたようになってしまうのだろうか、
人が誰かを恋しく求める姿を目の当たりにして、私の心は震えた。

東京で見た、自信に溢れる彼の姿は?
彼は、ロンドンを求めた訳では無く、彼女を求めて渡英したのだ。
創作活動、生活、人生...
ある人にとっては、創作は、身を削る行為であり、
自分を殺していく行為にも似ている。
彼女は、そんな彼を生き返らせてくれる人なのかもしれない。

数年前、彼女との間に天使が生まれたので、日本に戻ってきた。
彼は、ハウスハズバンドをしながら、密やかに創作活動をしているのだろう。
天使の存在を感じるような彼の作品を思いながら、
本当の天使との暮らしの中で彼はどうしているのだろう...と。

この季節、あの時のロンドンの朝の空気にちょっと似ている、
彼を思い出す。

EGOCENTRIC BINOCHE Violently Happy